健康美容の広告表示・薬事法

Q健康・美容ビジネスの広告・表示・薬事法

A

第1 広告・表示についての法規制概要

1 一般的な規制がなく弁護士以外にはわかりにくい

  • 先般、法律事務所が消費者庁から注意を受けるということがありましたが、あの事務所は特殊としても、一般的な規制がないことがないことから、商品・サービスの広告・表示に関する全般的に規制する単一法は存在しません。
  • 景品表示法があるではないか、というご質問をよくいただきます。そして景品表示法に関する本もたくさん出版されています。しかし、これは消費者に対する広告・表示に限定して一般的に規制を行うものです。そして、景品表示法は基本的には「行政処分」、つまり行政から悪いことをしましたね、ということで課されるペナルティという名の不利益処分です。典型的なものが食中毒を出した飲食店の営業禁止処分です。もちろん不利益処分を受けないように行動するのは、ベースラインといえますが、即、契約の取消しにつながるわけではありません。しかし、このベースラインを守っていないと、取消しの際の一事情として民法の世界でも不利益に考慮されるということは、当然のことといえます。
  • ここでおさえておかないといけない法律をピックアップ!

・景品表示法

・消費者保護法(消費者契約法)

・特定商取引法

・食品表示関連法

・食品表示法

・健康増進法

・各種の業法です。実は、業法に消費者保護に関する規定と読み込める規定がある場合も全くないわけではありません。

・宅建業法

・旅行業法

・医療法

・薬機法(医薬品、医療機器などの品質、有効性および安全性の確保に関する法律)

・民法の一般条項である詐欺、錯誤

・売買契約や請負契約の瑕疵担保責任

・刑法上の詐欺罪

・不正競争防止法の偽装表示規制

・・・ここまで見てくると頭が痛くなってきそうです。基本的にBtoCビジネスの場合、ここまですべてを網羅的に把握することは困難だと思います。ただ、自分のカンパニーに関連する商品、サービスで頻回に問題になる法令は重なってくるかと思います。そうした点について重点的に調査・検討を弁護士に任せ、広く浅くの知識はカンパニーで持っておくようにしましょう。医療エステは医師法違反にもなりかねない。

一般的な消費者保護法である特定商取引法や消費者契約法については、消費者との契約内容や勧誘行為に関して、これに違反した場合は、カンパニーとしては「売上に打撃」を受ける契約の取消し等の民事的効果が発生します。この点、会社の売上にも影響しかねない問題であるという意識を持つことが大事です。そして、業務停止などの重い行政処分を受けた場合は、食中毒で営業禁止処分を受けた飲食店と同じくイメージの悪化は避けられません。そういえば、私がかつて名駅のハンバーガー屋でアルバイトをしていたとき下水がバックヤードにあふれ出てきたことがありました。マンホールが、ビルの中にあり、何らかの不具合があったのです。カンパニーに責任があるか否かと行政処分を受けるかは別問題です。この件では、行政処分を受けることはありませんでしたが、今後予防法務を意識する必要性は格段と高まります。

加えて判例法理によりBtoCビジネスは消費者保護に重力が置かれることになりました。それが最近のサン・クロレラ事件最高裁判決です。

消費者契約法の「勧誘」の要件(不実告知などで取消しの法律要件になっています。)に関して、不特定多数に向けられた一般的広告の表記はこれに該当しないと考えられており、わたくしも法律家としてそのように解釈しておりました。しかし、私見は景品表示法の行政処分や消費者適格団体からの提訴により、最高裁も、消費者保護という非対称に重点的に着目するようになったのではないかと思います。サン・クロレラ事件最高裁判決は、クロレラ関連の健康食品の「チラシ広告」に関する事案でした。高裁は、新聞チラシ配布は、消費者保護法の「勧誘」に該当せず不実告知に該当しない、としました。

しかし、これからは、こうした「常識」は通用しないものとなります。

  • 最高裁は、不特定多数の消費者に働き掛けを行う場合という間接事実だけで、「勧誘」にならないわけではない、としました。

私見では、戸別配布があるチラシ、新聞、ネット広告、スマホ広告、テレビショッピング、ファックス広告は、事実上、家庭内に「無断」で入ってきやすい、という点を重視しているのではないか、と案が得ています。特に新聞広告は、最高裁で一例として明示的に指摘されています。判決文では、抽象論として、「消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは,当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与える」と指摘されています。

この新たに示されたサン・クレロラ判決は、上記のように私見によれば、LINEのように、ワンバイワンとなりやすい広告媒体、特にネット、スマホ関連の通販のディスプレイや広告の表記にも、射程距離があり、新判決が適用される可能性が高いのではないか、と一般に理解されています。そして、ネット通販については、上記の最高裁のチラシ等の戸別訪問的色彩の重視からいくと、ネット販売は、ディスプレイ上の広告は、契約の締結に直結するものです。例えば、今般では美容師業界などでも、ネットによる集客が一般というところもあり、今後注意が必要ではないか、と思われます。

そのような意味では、ホームページや広告媒体業者任せにしないで、自社でも最低限のチェックが法務的観点からできるようにしておく必要があり、今後、注意が必要であると思います。

最高裁の判断は、事業者等が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけのうち,どのような働きかけであれば「勧誘」に当たると認められるかについては具体的に判断しておらず,この点は,今後の事例の集積を待つことになると考えられます。

また、消費者に、「現に行い又は行うおそれがある」ということはできるか、をポイントとしています。

特に、あまり大規模ではない業者、カンパニーの場合、一件の契約取消し事案に対応する時間は、5件のクロージングよりも時間がかかる消防士的業務であり生産性もありません。顧問弁護士を活用し、予防法務と解決法務の態勢を整える必要性が高まったといえます。

特に、チラシでアウトとされたのですから、ネット系は全部アウトになるものと思って、リーガルチェックを差し挟んでいった方が良いと思われます。

  • サン・クレロラ事件最高裁判決(平成29年1月24日)

本件は,消費者契約法(以下「法」という。)2条4項にいう適格消費者団体であるXが,健康食品の小売販売等を営む会社であるYに対し,Yが自己の商品の原料の効用等を記載した新聞折込チラシ(以下「本件チラシ」という。)を配布することが,消費者契約(法2条3項)の締結について勧誘をするに際し法4条1項1号に規定する行為を行うことに当たるとして,法12条1項及び2項に基づき,Yが自ら又は第三者に委託するなどして新聞折込チラシに上記の記載をすることの差止め等を求める事案である。本件チラシの配布が法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるか否かが争われている。
原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
Yは,昭和48年から,単細胞の緑藻類であるクロレラを原料にした健康食品を販売している。
Yは,平成25年8月21日,クロレラには免疫力を整え細胞の働きを活発にするなどの効用がある旨の記載や,クロレラを摂取することにより高血圧,腰痛,糖尿病等の様々な疾病が快復した旨の体験談などの記載がある本件チラシを,京都市内で配達された新聞に折り込んで配布した。
本件チラシは,平成27年1月22日以降,配布されていないところ,Yは,同年6月29日以降,上記(2)の記載がないチラシを配布している上,今後も本件チラシの配布を一切行わないことを明言しており,Yが本件チラシを配布するおそれがあるとはいえない。
原審は,法12条1項及び2項にいう「勧誘」には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ,本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであるから上記の「勧誘」に当たるとは認められないと判断して,Xの上記各項に基づく請求を棄却した。
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
法は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(1条),事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,重要事項について事実と異なることを告げるなど消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより,消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には,当該消費者はこれを取り消すことができることとしている(4条1項から3項まで,5条)。

そして,法は,消費者の被害の発生又は拡大を防止するため,事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,上記行為を現に行い又は行うおそれがあるなどの一定の要件を満たす場合には,適格消費者団体が事業者等に対し上記行為の差止め等を求めることができることとしている(12条1項及び2項)。
ところで,上記各規定にいう「勧誘」について法に定義規定は置かれていないところ,例えば,事業者が,その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは,当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得る。

したがって,事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは,上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいい難い。
したがって,事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても,そのことから直ちにその働きかけが法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。
以上によれば,本件チラシの配布が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであることを理由に法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるとは認められないとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。
しかしながら,前記事実関係等によれば,本件チラシの配布について上記各項にいう「現に行い又は行うおそれがある」ということはできないから,Xの上記各項に基づく請求を棄却した原審の判断は,結論において是認することができる