労務問題

Q□問題社員・パフォーマンスの低い社員の処遇について相談したい

A

1 まず問題社員とパフォーマンスが悪い社員を区別します。問題社員は,必ずしもパフォーマンスが低いとは限りません。問題社員というのは、一般的には①勤務態度不良社員、②違法・不法社員、③私生活に問題のある社員などをいいます。この点、もめる社員というのは経験上決まっています。主には、①給与が高い社員、②健康・経済・家庭に不安のある社員、③一定の権限がある場合、④労使紛争を経験した「労働者」である場合などです。

2 まず②の違法・不法社員ということになりますが、解雇ないし懲戒解雇をするには客観的具体的事由があり,社会的相当性が認められなければ有効にはなりません。客観的具体的事由というのは就業規則により具体化されますから就業規則の作成や労働契約で解雇や懲戒などの事由は,最低でも記載しておきたいところです。

この点,裁判所は請負契約と労働契約の特性から,業務成績などの成果よりも勤怠不良などを重視する傾向にあります。

したがって,違法・不法社員が生じた場合,まず刑法犯の場合は,顧問弁護士と相談し,刑事的な処分(起訴,不起訴,執行猶予)をベースラインに業務遂行の確保が困難であるか,職場環境が悪化することが避けられないか,社会的相当性を欠いており刑事訴追はなくても会社としてペナルティを科す必要があるかを検討することになります。

一般的には,介護職員が横領しその後示談がなされたなどでしょう。この場合も退職勧奨などあくまでも懲戒解雇や解雇は最後の手段とするようにして、その理由の説明を顧問弁護士から文書でさせるといったことが妥当です。

3 次に業務成績などパフォーマンスの悪い社員については、そのパフォーマンスが常識ではあり得ないという場合に限られるなど法的にはかなり厳しい規制にあります。また、人事考課等が相対評価をされている場合、絶対評価でない以上、評価が低いとされるものは常に存在することになります。したがって、単にパフォーマンスが低いというだけでは、解雇をすることはできません。

いわゆるパレードの法則があるように、全体の利益は2割の従業員が作り出しているという分析もあるように、パフォーマンスに問題があってもいきなり解雇するのではなく、教育訓練や本人の能力に見合った配置をするなどの解雇回避措置をとる必要があります。配転を重ね、どの文書でも成績があげられない場合は解雇が有効とされます(三井リース事件)。

4 「おにもちゃん」というパフォーマンスの悪い社員を解雇するには、7つの要件が必要です。まず、①注意・指導を相当期間行ったか、ということです。要するに汚名返上名誉挽回の機会を与えているか、ということです。この場合、どのような注意をしたかはメモや指導報告書などを起案するようマネージャーに指示しておく必要があります、②上記証拠があることが要件です、そして③具体的な目標設定を適切に行ったか、ということですが、こうしたファシリテーターの存在は最近のホワイト企業ではよくあることです。適切な目標で低すぎず高すぎずの目標を立てさせる必要があります。そして、④具体的な目標設定にあたり、社員の意見を聴取したか、という点ですが、一般的な会社では1か月に一度程度、目標達成の程度について議論するという会社が増えており目標についてもPDCAサイクルを廻す、ということが増えています。⑤目標が実現可能なものであるか、実は裁判所は目標が実現可能なものであるかを重視します。しかし、JALなどでは各部門が目標を達成しすぎて申し訳ありません、という言動が会議でなされます。つまり、目標をあまりに保守的にしなければならない、とうところですし到達率を7割程度でよし、としていれば、実現不可能な目標を設定して退職に追い込むための嫌がらせといわれる可能性もないと思います。

⑥解雇は最後の手段原則が適用されますので、それまでに配転をしているかなどがポイントになります。しかし、ぶらさがり社員を配転で受け入れる部署もたまったものではないでしょうから、次第に退職勧奨など指導を積み重ねていく必要もあるか、と思います。

⑦解雇以前に退職勧奨を行っているか。

経営者の場合は解雇よりも退職勧奨による退職の方が多いことが実情です。こうした交渉を顧問弁護士に依頼なされる方もいます。退職勧奨も「会社都合」で失業保険における不利益はありませんし、合意で退職してくれるのであれば、それに越したことはありません。退職勧奨に至った経緯などに照らす資料がそろっていれば裁判も有意に進められます。

労務トラブルを防ぐためには、解雇はできるだけ避けて回避すべきと思われます。社員と面談する機会を増やして、具体的な理由を述べたうえで、退職届の提出を打診することになります。

顧問弁護士としては、会社から課題を与え、指導担当をつけて目標達成ができるか、その態度・プロセスの観察、結果としてのレポートを書く一連の流れをするように求めます。いわゆる「にもちゃん」は、注意曽、警告書、最終警告書などを、出していきます。

私も経営者として、就業規則上の懲戒処分ではなく所属長注意などを口頭でした事実関係などを積み重ね、辞めてもらうということもありますが、これも解雇の前に退職勧奨をすることが重要です。特に弁護士も含めた営業職の場合、営業プロセスを毎日レポートで報告をさせ、上司にその文書をチェック、添削させるということ、定期的に上司に営業同行させるなど、文書、レポートを蓄積させます。そうすると定量観察もできるようになり、のちに行動の虚偽などもわかりやすくなります。

労働者を精神的に追い詰めることでトラブルが生じることもありますが、他方、力をつけさせる、ということで労働者にもメリットがある、そのバランスやその間での軋轢を顧問弁護士が解決します。

 

*解雇有効事例(三井リース事件)

本件記録及び債権者本人の審尋の結果によれば、債権者は平成四年一二月一四日の組合結成以降、執行委員長として債務者に対して、時間外労働の運用方法、賃金の計算方法、有給休暇の請求等について労働条件の改善を要求して、団体交渉をするなどして、積極的に組合活動をしたこと、組合員数は最盛時には約四五人に達したが、平成五年三月三日頃は約三〇人に減少し、現在では約九人になっていること、債権者の平成四年度の給与額及び夏期・冬期の賞与の合算額は、それぞれ三五五万六三九六円及び九九万八五〇〇円であるのに対し、平成五年度はそれぞれ三二七万二六六三円及び五七万一五〇〇円に減少していることが認められる。しかし、債務者経営の自動車教習所は、教習生に自動車運転の技術及び知識を習得させて、運転免許を取得させるように指導する公益的な役割を担った施設であり、その職務に直接従事する指導員としては高度の技術・知識・人格等を要求され、かつ、指導員は教習生及び経営者や幹部職員と善良な人間的な信頼関係を保持する必要があることを考慮すると、指導員の学歴もその職務についての適格性及び資質等を判断するうえで、重大な要素の一つであると認められ、債権者が高校中途退学者であることが雇用時に判明していたならば、少なくとも債務者は債権者を指導員見習として雇用しなかった。また、その後に指導員としての職務に配置しなかったと認められるから、債権者が学歴を偽って債務者に雇用されて、指導員としての職務に従事した行為は、重大な背信行為として就業規則六二条一号所定の「履歴書の記載事項を詐って採用されたことが判明したとき。」に該当して懲戒解雇の事由になり、また、債権者は、組合員野上の退職勧告等の措置の撤回を要求して、団体交渉の議題としてこれを申し入れる前に、事前の通告も行わすに、債権者を含む二三名の組合員を約二時間も運転教習の勤務に従事させないように計画、指導し、その怠業により債務者に多大な経済的損失を被らせたばかりでなく、多数の教習生に迷惑を及ぼして苦情を生じさせたことにより、債務者の信用を傷つけた行為は、同条五号所定の「故意または重大な過失により会社に損害を与えまたは会社の信用を傷つけたとき。」に該当して懲戒解雇の事由になり、右の二つの事由を合わせて考えると、情状が軽微であるとは認めることができない。そうすると、その他の懲戒解雇事由の存否について判断をするまでもなく、債務者が債権者を懲戒解雇したのは、組合活動を嫌悪して、その執行委員長である債権者を職場から追放して、組合活動の終息ないし弱体化を図る不当労働行為の意思をもってなした行為と認めるのは相当ではない。

かえって、公益的な業務を遂行する組織体としての職場秩序を保持するために、その規律違反行為に対する必要な制裁行為として行った行為であり、正当な根拠があると認められる。したがって、債権者の行為の態様、その秩序違反及び発生させた結果の重大性その他の諸般の情状を考慮すると、債務者に解雇権の濫用があったとも肯認することができない。

 

 

 

 

 

★解雇無効事例(オリンパス事件・東京高裁平成23年8月31日)

(1) 事件の概要 被控訴人Y1社(一審被告)は,デジタルカメラ,医療用内視鏡,顕微鏡,非破壊検査機器(NDT)等の製造販売を主たる業とする株式会社である。被控訴人Y2(一審被告)は,Y1社のIMS事業部事業部長で,IMS事業部を統轄する権限を有する。被控訴人Y3(一審被告)は,IMS事業部の一部門であるIMS国内販売部の部長で,Y2のすぐ下の職位にあり,控訴人X(一審原告)がIMS企画営業部に異動になる前は,Xの直属の上司であった。
Xは,昭和60年1月からY1社に正社員として勤務し,係長格相当のP2の資格に位置付けられていた。Xは,60年から平成4年まで,Y1社のカメラの研究開発業務に従事し,6年,希望して営業職に転換し,国内販売部門,海外営業部門,ニューヨーク駐在,関連会社であるオリンパスイメージング株式会社のデジタルカメラ開発企画部門に順次配属された。
平成17年10月1日,Xは,Y1社IMS事業部に異動し,1年間IMS事業部IMS企画営業部工業用内視鏡販売部門に配属され,販売部門チームリーダーおよびマーケティング部門チームリーダーの職に就いた。Xは,18年11月から,オリンパスNDT株式会社(以下,「ONDT」)においてNDTシステム営業に携わっていたが,19年4月1日,ONDTがY1社に吸収合併されたため,同日から,Y1社IMS事業部のIMS国内販売部NDTシステムグループ営業チームリーダーの職に就いた。
NDTとは,Non-destructive Testingの略で,超音波探傷技術および渦流探傷技術を利用し非破壊的に鉄鋼製品等の傷を探知する検査機器をいう。Y1社に吸収合併されたONDTは,NDTシステムを販売するビジネスを行っており,アールディーテック・アジア株式会社(以下,「アールディーテック」)は,上記合併前にONDTによって買収された会社であり,鉄鋼製品のうち丸棒鋼を製造するA株式会社(以下,A社)から大型NDTシステム国内第1号機を受注,平成16年に第1号機を納入し,18年8月に第2号機を備え付けた。そのため,A社は,アールディーテックの最重要顧客であった。
上記のとおり,Xは,平成18年11月からONDTに異動したが,その内示を受ける10月頃に,被控訴人Y3は,Xに対し,取引先の従業員が中途採用によりONDTに入社する予定があることを伝えた。そして,同年12月に,A社から訴外BがONDTに入社した。
平成19年4月1日付で,ONDTは,Y1社に吸収合併され,Xは,上記のとおり,IMS事業部のIMS国内販売部NDTシステムグループ営業チームリーダーの職に,Bは同グループ技術チームリーダーにそれぞれ任命された。
同月上旬,Xは,同グループ技術チームに入ったCから,Bが「A社からBの後輩が入社することになっている,3号機の受注をおみやげとして持ってくる,Xには内緒にしておくように。」と言っていたことを聞かされ,同月12日,IMS事業部事業部長の被控訴人Y2に対し,A社からの二人目の転職希望者の採用はとりやめるべきであるなどと述べた。これに対して,Y2は,「XがY2に相談しに来たのは大間違い,XのボスはY3だ,すべてのことはY2-Y3-X-メンバー(顧問であるD。元アールディーテック社の副社長)の指揮命令系統で動くことだ,Y3がA社のことは任せろとXに指示したにもかかわらずDのコメントを伝えるのも大間違い」などという内容の電子メールを送信した。
同年6月1日頃,Xは,Y1社のコンプライアンスヘルプラインに電話をかけ,コンプライアンス室のEとその部下であるFが,Xと会い,EおよびFにA社からの従業員(L)転職の件を説明し,A社から第2,第3の従業員引抜きが発生する可能性があり,顧客であるA社からの信頼失墜を招くことを防ぎたいと考えている等と相談した。そして,同月27日,EとFが,通報者がXであることを告げたうえ,Y2から事情を聴取した。
同年7月3日,Eが,Xに対し,コンプライアンス室への相談に対する回答として電子メールを送信した。それは,「取引先担当者を採用することは,取引先との良好な関係を維持・継続するうえで十分な注意が必要である。……重要取引先から続けて2人を採用することについては,たとえ本人の意思による転職であっても,先方に対する配慮を欠いたといわざるを得ない。……人事部では,取引先担当者の採用に関する明文化された基準はないが,基本的には道義的な問題があり,“採用は控える”というのが原則だと考えている。採用する場合には,当事者が当社ヘの転職を希望し,取引先と当社との間で機密保持誓約を含む同意が成立しない限り行わないこととしている。」,などというものであった。
同年7月頃,Y2は,Xの配転命令について検討を始め,平成19年10月1日付で,IMS事業部IMS企画営業部部長付への配置転換(以下,「第1配転命令」)を命じた。Y1社の就業規則33条には,「業務の都合により従業員に対し,同一事業場内の所属変更および職種の変更を命ずることがある。」との定めがあり,34条には,「前2条の場合,従業員は正当な理由がなければ,これを拒むことはできない。」との定めがある。また,Y1社とXが加入するオリンパス労働組合との間の労働協約40条には,「会社は,職務の任免にあたっては,組織の必要性と効率性の観点から最も合理的に行う」と定められ,41条(1)には,「会社は業務の都合により,組合員に事業場間の派遣,転勤,転籍または社外勤務を命ずることができる。」との定めがあり,同条(3)には,「会社は異動にあたり,人材の適材適所を狙いとしたチャレンジングシステムを有効に活用する。」と規定されている。
また,Y1社は,オリンパスグループ企業行動憲章を定め,その前文で「法令遵守はもとより,高い倫理観を持って企業活動を行う」とし,行動規範の実効性を確保するためにヘルプラインを設置していた。コンプライアンスヘルプライン運用規定には,通報者本人の承諾を得た場合を除き,通報者の氏名等,個人の特定されうる情報を他に開示してはならないこと(14条2項),通報者に対してヘルプラインを利用したという事実により不利益な処遇を行ってはならないこと(16条)が規定されていた。
本件は,控訴人Xが,Xに対する第1配転命令は,Xが被控訴人Y2や被控訴人Y3らによる取引先企業の従業員の雇入れについて被控訴人Y1社のコンプライアンス室に通報したことに対する報復としてされたもので無効であるなどと主張して,XがY1社IMS企画営業部部長付として勤務する雇用契約上の義務がないことを確認することを求め,また,違法な第1配転命令と,その後の上司による業務上の嫌がらせ(パワーハラスメント)等によりXの人格的利益が傷付けられたなどと主張してY1社らに対し,損害賠償請求を行った事案である。
本件の争点は,①配転命令が有効かどうか,②不法行為に基づく損害賠償請求が認められるかである。
(2) 一審の判断 一審判決は,配転命令が権利濫用に該当するか否かにつき,東亜ペイント事件(最二小判昭61.7.14労判477号6頁)を引用したうえで,配転命令は,配転の業務上の必要性とは別個の不当な動機や目的をもってなされた場合には,権利濫用となり,また,配転命令が,当該人員配置の変更を行う必要性と,その変更に当該労働者をあてるという人員選択の合理性に比し,その命令がもたらす労働者の職業上ないし生活上の不利益が不釣合いに大きい場合には権利濫用となるとして,次のように判示した。
まず,本件第1配転命令によってXが被る不利益については,勤務地に変更がないこと,賞与減額に関するXの主張を前提としても,その減額はわずかなものであること,Y1社はキャリアプランの結果に基づきXに適材適所の人事配置をなすことを労働契約上義務付けられているとはいえないこと,賃金の減額が伴う地位の降格があったことを認定するに足りる証拠はないことから,本件第1配転命令によってXに生ずる不利益はわずかなものであるとした。
次に,本件第1配転命令の不当な動機目的についても,違法不当な目的は認めがたいとし,さらに,本件第1配転命令につき公益通報者保護法違反も成立せず,コンプライアンスヘルプラインに通報したことを理由とする不利益取扱いを禁止したコンプライアンスヘルプライン運用規定にも反しないとした。加えて,本件第1配転命令は,労働力の適正配置および業務の能率推進円滑化に資するものであり,Xにとっても,新たな技術や事業分野の調査研究が自らの能力開発につながることは明らかであり,業務上の必要性を肯定でき,本件第1配転命令は権利の濫用とは認められないとして,Xの請求を棄却した。
最後に,一審判決は,Y1社に対する不法行為に基づく慰謝料等請求につき,本件第1配転命令について,Y1社に違法不当な目的を認めることができず,Y1社らが本件第1配転命令後もXを精神的に追い込もうとした事実は認められない等として,Xの請求を棄却した。
以上に対して,Xは控訴したが,Y1社は,一審口頭弁論終結後の平成22年1月1日付で,Xをライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部長付への配置転換を命じ(以下,「第2配転命令」),さらに,二審継続中の同年10月1日付で,同品質保証部システム品質グループへの配置転換を命じた(以下,「第3配転命令」)。このため,Xは,二審において,XがY1社IMS企画営業部部長付として勤務する雇用契約上の義務がないことを確認することを求める第1の訴えを,ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部長付として勤務する義務がないことを確認する訴え(第2の訴え)に変更し,さらに,同品質保証部システム品質グループにおいて勤務する義務がないことを確認する訴え(第3の訴え)に変更した。
二審の争点は,①訴えの変更の可否,②第1から第3配転命令が権利濫用に当たるか否か,③不法行為の成否である。
(3) 判断のポイント 二審判決は,争点①について,第1配転命令,第2配転命令および第3配転命令は,配転時期,配転先および配転後の業務内容をそれぞれ異にするが,いずれも,Y1社が人事権を濫用したか否かが争点となっていること,Xは,第2配転命令および第3配転命令は第1配転命令の延長線上にあると主張していることから,Xが第1配転命令から第3配転命令の無効を主張し,各命令に従って就労する義務のないことの確認を求める第1の訴えから第3の訴えは,いずれもその請求の基礎を同一にするものというべきであるとして,第1の訴えから第2の訴えに,第2の訴えから第3の訴えにそれぞれ交換的に変更することについて,これを許さない旨の決定はしない,とした。
争点②につき判決は,まず,Y1社が導入する「能力開発ガイドライン」を基礎とする資格制度の土台となっているキャリアプランを根拠として,従業員の配置に関するY1社の労働契約上の義務を認めることはできないし,XとY1社との間に営業職,開発(技術)職というような職種の限定に関する明確な合意があったことを認めるに足りる証拠はないとした。しかし,判決は,前掲・東亜ペイント事件を引用しつつ,判旨3,4のように述べたうえで,次のようにして,第1から第3配転命令は,いずれも人事権の濫用に該当すると判示した。(Ⅰ)第1配転命令は,Y2において,A社から転職者の受入れができなかったことにつきXの言動がその一因になっているものと考え,Y1社の信用の失墜を防ぐためにしたXの本件内部通報等の行為に反感を抱いて,本来の業務上の必要性とは無関係にしたものであって,その動機において不当なもので,内部通報による不利益取扱いを禁止した運用規定にも反するものであり,第2および第3配転命令も,いわば第1配転命令の延長線上で,同様に業務上の必要性とは無関係になされたものであること,(Ⅱ)第1から第3配転命令によって配置された職務の担当者としてXを選択したことには疑問があること,(Ⅲ)第1から第3配転命令は,いずれも人事権の濫用であるというべきであるとした。
最後に,争点③につき判決は,第1配転命令および第2配転命令は,いずれもY2が人事権を濫用したものであり,第3配転命令もその影響下で行われたものであって,これによりXに昇格・昇給の機会を事実上失わせ,人事評価を貶めるという不利益を課すものであるとして,Y2の行為が不法行為法上も違法というべきであるとした。

以上